ブラジルポップの大御所、シコ・ブアルキのコンサート


MPB(ムージカ・ポプラール・ブラジレイラ)の大御所で、ブラジル人に絶大な人気を誇る偉大なアーティスト、Chico Buarque(シコ・ブアルキ)のコンサートが8月末からサンパウロで行われている。
このブログのコメント欄で、いつも良質なブラジル音楽情報を提供してくれる我が友人「オザキ」さんからこのコンサート情報を知り(7月27日の日記参照)、早速ダンナが会場のチケット売り場に行ってなんとか希望の日程を確保したのだった。


実は彼のことはほとんど知らず、たまたま我が家に1枚だけCDがあったのみ。
だけどコンサートに行くからには!と、彼の最新アルバム「Carioca (Bonus Dvd) (Sub) (Dig)」を購入し、毎日のように流して予習していた。
淡々としたささやき系の歌声はボサノヴァらしく耳に心地よい。
パンチの効いた力強さはないけれど、スーッと流れるような、語りかけるような歌い方はなかなか素敵だな、と思っていた。


そして迎えたコンサート当日。日曜日の午後7時開演である。
平日は確か10時から始まるという、実にブラジルらしい夜の遅さ… けれど日曜は早いのね。
会場までは車で行き、20分前くらいに到着したんだけれど、駐車場に入ろうとする車でごった返していた。実は帰りがもっと大混雑で、しかも駐車場代が18ヘアイス:900円もするので(ブラジルにしてはとても高い!)、そんなことならタクシーで来たほうがずっとラクだったかも…と思った次第。


と、話は本筋からそれましたが。
会場のTom Brasilに入り、まずはグッズ販売コーナーを見学。新作アルバムのジャケット写真がプリントされたTシャツがあって、結構可愛いなぁと思ったんだけど、女性用は最初の週で売り切れてしまったとのことだった。残念!ちなみにTシャツは約1600円。
彼のCDに加え、ブラジル人アーティスト(おそらく彼が作った楽曲が含まれているものかな?)のCDもズラリと並んでいた。

開始10分前、会場はすでに満席状態。ここは、ステージの前にテーブルとイスがずらりと並び、飲食しながら音楽を楽しむタイプの会場だ。
東京で言えばブルーノートみたいな感じ?でもそれよりずっと規模が大きくて、体育館のように2階にギャラリー席もある。


すでにお酒を飲みながら談笑している人びとをかきわけて指定席にたどり着き、注文を取りに来たギャルソンにビールと揚げ物(おつまみ)を頼んだ。


しばし冷えたビールを味わっていると、もう開始時間の7時…。
通常、ブラジルって、何事も時間が遅れがちだから今回も大御所のコンサートとは言え30分くらいは軽く遅れるだろう…と思っていたのに、なんとなんと、ほぼ定刻どおりに始まったのだ。
しかも、前座も前ふりトークもなしに、いきなりシコご本人がギター抱えてステージ中央に登場だよ!もちろん、シコの姿が見えるやいなや、会場を埋めたファンたちの大歓声が割れんばかりに響いた。すごい人気ぶり、さすがだ。


生で聞くシコの歌声は、CDよりもずっと渋くて素敵。CDよりもっと声に力がある。
そして彼は、直立不動で、実にまっすぐに実直にマイクに向かうんだなぁ。
体を揺らしたり、踊ったりということが全くない。ただひたすら、言葉に、メロディに力を込め、魂を吹き込んでいるという感じ。
そんなまっすぐさに、私はこころを打たれた。


トークすらほとんど挟まずに、次々に歌をつむいでゆく。
曲は、新作アルバムのものがほとんどだった。アルバム12曲中、軽く7〜8曲は歌っていたんじゃないかなぁ。予習が足りなくて、曲名とか曲順を把握しきれていないのが残念…。
でも、何度もCDで聞いたお気に入りの曲が、こうやって、目の前で、最高の音響の中で生で聞けるということは、やっぱり鳥肌モノである。


女性ボーカルとデュエットする曲とか、打楽器奏者が一部ボーカルを担当しちゃった曲なんかもあり、淡々と進行する中にもバラエティがあり、その変化がまたとても良かった。
彼の渋さはもちろんのこと、私は、バックで演奏するバンドマンたちの渋さにも感激した。
ピアノもギターもベースもパーカッションも、みんな、往年の熟練者という風情で、すごーくかっこ良かったのだ。
彼らの背景については何も知らないけど、きっと、長年シコと一緒にステージを重ねてきたメンバーなんだろうな…と察した。


後半では、おそらく彼の過去の作品から特にファンに人気のある曲をいくつか歌ったのだろう。会場は大合唱の渦。シコと同年代(60歳台くらい?)のご夫婦から、結構若いおねえちゃんまで、実に幅広い年齢層のファンたちが気持ち良さそうにシコと一緒に歌っている。
ああ。私ももっと予習が出来ていれば一緒に声を出せたのに〜と悔やむ瞬間。



ステージのサイドには大型スクリーンでシコのアップが映し出され、照明の雰囲気も洗練された都会的な感じがあり、派手ではないけれどビジュアル的にもとても心地が良い空間だった。
何といっても、テーブルに着き(狭いけどね)、ビール片手にリラックスして音楽を聴くというのは素晴らしくいいね。
武道館なんかのライブで、オールスタンディングでノリノリに踊りながら…もいいけれど、30過ぎた体にはちょっとキツイこともあるからね(笑)
こういうブラジルスタイルのコンサート、日本でももっと広まればいいのに、と思うよ。


1時間半ほど休憩もなしで歌い続けた後、おもむろにステージ奥に下がってしまったシコとバンドマンたち。
え、もう終わるの??というくらい、短く感じられた。
もちろんアンコールの声が上がり(Mais un,mais un 直訳すると「もう一回、もう一回」という掛け声)、すぐにまたシコが登場した。
そして2曲ほど歌い、コンサートは終演となった…。


1999年以来、7年ぶりのコンサートだという今回のツアー。彼は、ここ30年に4回しかコンサートを行っていないのだそう。
そんな貴重な時間を、たまたまこサンパウロに住んでいたおかげで私たちも共有させていただくことが出来、本当にラッキーだったと思う。
もっと彼の音楽を知りたいと思ったし、音楽だけでなく小説家としても成功しているそうだから、その著作を読んでみたいと思った。
そんなふうに、私の興味をまた一つ広げてくれた今回のコンサート。シコに会えて良かった。

Carioca (Bonus Dvd) (Sub) (Dig)

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