ブラジルの鉄道とサッカー発祥の町へ

私が所属している「知る会」の見学会が久々に企画された。
今回の行き先は、サンパウロとサントスの間くらいにある山あいの小さな町、Paranapiacaba。
パラナピアカーバ、というちょっと長い名前。町というよりサントアンドレ市の中の一地区で、そこ自体の人口は1700人程度だそうだ。
イギリス人が鉄道を敷くために切り開いた町で、ブラジル最初の汽車や鉄道システムが当時のままに残されているという。
ブラジルと鉄道?ってちょっとピンと来ないけど、コーヒー輸出が盛んになり始めた19世紀後半頃、内陸部のコーヒー農園から輸出港である
サントスまでコーヒーを運ぶために大活躍したのが、この鉄道なのだ。


サントスへ向かうアンシェッタ街道を走り、途中から山に入る道へと曲がる。
湖が両脇に広がり、緑が多く、サンパウロのような都会からこんなに近くにこんな自然があるなんて…と、ちょっとびっくり。
しばし山あいの道を行くと、あらら、ずいぶんと深い霧が立ち込めてきた。運転手さん、よく前が見えますね?と言いたくなるような視界の悪さ。こんなんで今日の観光は大丈夫?


サンパウロから1時間半ほど走っただろうか、着いた町はやっぱり真っ白な霧の中。
現地のガイドさんが我々を待ち受けてくれていたのだが、この霧について、
「ここはイギリス人が作った町、いつもこんな風に霧が出ているけれど、彼らにとっては霧のロンドンのようで、ぴったりなんだ」というようなことを言っていた…
ま、まぁ、確かにロンドンの雰囲気…なのかな?
それにしても寒いぞ。
(下の写真はイギリス人の街並みではなく、働いているイギリス人たちに商品を売るために住み着いたポルトガル商人の家々だそう)


それもそのはず、ここは標高700メートルを越える高地。海岸山脈の山の上なのだ。
この日は本当に霧が深くて、真っ白で視界数メートルといったところ?
残念ながら、街のシンボルの時計塔(ビッグ・ベンと呼ばれている、とてもかっこいいもの)も見えなかったのよ〜。


だけどここはビッグベン以外にも見どころ満載。
当時、イギリスから輸入されたという客車や、機関車トーマスみたいな姿の汽車や、皇帝ドン・ペドロ2世が旅行する際に利用した列車などなどが展示されている。


そして、フニクラ式という、イギリスで生まれた鉄道システムの機械…これがものすごく巨大な車輪なんだけど、当時のままに残されている。
この山の上の駅から港のあるサントスまでの標高差は790メートル、そこに汽車を走らせるんだからものすごいことだと思う。
こんな巨大な車輪を利用して、鉄のロープを引っ張るようにして汽車を動かしていたんだね。


この車輪を使ったシステムは、つい最近まで利用されていたとのこと。
現在は、日本の日立のシステムに変わったんだそうです。
ちなみに、列車は今でも貨物専用として走っていて、この日も鉄鉱石がサントスに向けて運ばれていった。


鉄道関係の見学のあとは、イギリス人の鉄道関係者たちが住んでいた街並みを歩いた。
当時、産業革命にわいていたイギリスは、自国の技術や物資をどんどん輸出したくて、ここブラジルにもずいぶん技術提供したようだ。
イギリスから来た技師たちとその家族もかなり多かったんだろう。彼らが住んだ社宅や、社交場など、一部の施設は中も見学できるようになっていて
とても興味深かった。


中でも、おぉ!と思ったのは、なんとブラジルのサッカー発祥の地がこの街だったという事実。
ここに住んでいたイギリス人たちが、自国からサッカーを持ち込んだんだって。チームを作って、休日に試合をしたりして楽しんでいたんだって。
その頃の白黒写真がパネルで展示されていた。へぇー、ブラジルサッカーの始まり、ここにあり。


そう、最初はイギリス人の楽しみだったんだよね、ブラジルのサッカーも。その頃は、高貴な方々の余興だったのね。
こんな小さな街からスタートしたのかと思うと、なんだか感慨深いものがあった。


社宅のいくつかは、いまはレストランやティーハウスなどの飲食施設になっていて、
ちょっとした散策にぴったりな感じ。
私達もそのうちの一軒に入り、ランチをいただいた。

この店の得意料理だという、サーモンのくん製料理を食べたのだけれど…むむむ、確かに美味しい!
なんと、サーモンにマラクジャの甘酸っぱいソースがかかっていて最初はびっくり、だけどこれが微妙にマッチするんだよね。
カルニセッカ(干し肉)とキャッサバ粉で作ったグラタンみたいな料理も、塩辛すぎずに美味しかった。


可愛い店内は、そういえばなんとなくイギリスの田舎風?(と言いつつ、イギリスの田舎には行ったことないんだけどね、あはは)で
居心地が良かった。
街も静かで、犬がのんびりと歩いていたりして、サンパウロの喧騒から離れて過ごす休日にはちょうどいいスポットだなぁ。




外はまだ霧が深かったし寒かったので、本当はもう少し街を散策する予定だったけど、
早めに帰途に着いたのだった。
現地ガイドさんによると、土地柄、普段から霧が出ていることが多いんだそう。そうなのか、やっぱりイギリス的なのね?
霧が晴れたら、山の緑に包まれてビッグベンもきれいに見えて、また格別なんだろうなぁ。
今度は夏の暑いときに来てみようかな。そういえば週末だけ、観光用に蒸気機関車を走らせるようなことも話していたし。
とりわけ、汽車が大好きな男の子にはたまらない街かも知れないね。