日系1世が暮らす老人ホームへ

私が所属する会では、月に1回程度、見学会と称して市内および近郊のいろんな施設にグループで出かけている。大人の社会見学という雰囲気だ。平日の日中に女性だけで遠くに出かけることが非常に難しい駐在員妻社会…治安の面とか、夫人は車を運転してはいけないという会社の規定とかがある…において、この見学会は本当にありがたい機会。出来る限り参加して、見聞を広めたいと思っている。


さて今日の見学先は、日系1世や2世のお年寄りが暮らす、特別養護老人ホーム。国際空港の比較的近く、小高い丘の上にあって、青空が近く爽やかな風が吹くとてもいい環境にあった。
JICA国際協力事業団を通じ日本政府からの支援を受け、2000年に開設されたまだ新しい施設で、館内はとても清潔で明るくて、いい雰囲気!
ここには、介護が必要なお年寄りが50名ほど入居されているとのこと。車椅子で、要介護度が高いお年寄りから、比較的元気だけれども諸々の事情でここに住んでいる高齢のご夫婦まで、いろいろな方がいらっしゃった。


ここで私たちは、幼い頃に移民としてやってきた日系1世のおばあちゃんたちに、貴重なお話を伺うことが出来た。15歳でやってきて、現在88歳になるナツエさん。家族とともにコーヒー園に入り、過酷な労働を強いられ、家族で夜逃げした経験もあると。その後は綿をつくり、結婚したものの若くして夫に先立たれ、6人の子どもを女手ひとつで育て上げたと。そして、ずっとずっと日本に帰りたい帰りたいと思っていたのに、結局今までに一度も日本に帰っていないと…。


まさに、ハルとナツを地でいくようなナツエさんのお話はとてもリアルで。コーヒー園の思い出を語るその表情は今にも泣き出しそうで。本当にご苦労されたんだ。小さく消え入りそうな声だったけれど、表情を見ているだけで当時の苦労が伝わってくる。


そんなナツエさんは、根っこはとても明るくポジティブな人だった。
「毎日明るく楽しく、笑って食べて、それが一番だよ」とお話の最後をしめくくった。そして、いま自分がこのような施設で多くの人のお世話になっていることが申し訳なくて…と何度も繰り返し言っていた。その姿は、日本のおばあちゃんの姿となんら違いはなく、私はなんとなく安心したような、だけどここはブラジルで日本の裏側で…なんとも不思議で切ない気持ちにもなった。


私のように、駐在員はいつか必ず日本に帰る。
帰ることがわかっているからこそ、今を楽しんだり、帰国後のことを想像できたりするけれど、帰るつもりで来たのに帰れなかった日系1世の方々は、どんな気持ちで1年、また1年と過ぎ行く日々を想ったのだろう。
ホールに集まって歌を歌ったり、食堂でみんなで日本食のランチを食べている様子などは、日本の施設の光景と全く同じ。だけど介助スタッフは浅黒い肌のブラジレイラ。やっぱりここはブラジルだった。