サンパウロ近郊の野菜農家見学ツアー


私の両親は、北海道の北部の小さい町で、農家を営んでいる。
メインで作っているのはもち米。わが町は米の北限地帯に位置するんですよ。で、もち米は町の特産品でもあり、先日も少し書いたけど、誕生餅を全国に販売してたり、道の駅のようなところで作りたてのもち菓子を売ってたりするんですよ。
セブンイレブンの赤飯おにぎりに使用する米として採用されたこともあるんですよ。
と、ふるさと自慢は置いといて。
実家では、もち米のほか、その年によって小豆とかニンジンとか小麦とか、いろんな作物を栽培し、出荷している。
家で食べる野菜は、トマトでもレタスでもナスでもジャガイモでも、何でもほとんど作っている。
だから実家にいたときは、スーパーで野菜なんて買ったことがなかった。(今思えば、すごい贅沢…?!)
そんな環境で暮らしている両親だから、ぜひとも農業王国ブラジルで、農業見学をさせてもらいたい…というリクエストを私にしてきた。


そこで知り合いの日本人ガイドさんに頼んで、近くに見学させてくれそうな日系の農家がいないかどうか探してもらい、日帰り見学ツアーを特別に組んでもらったのだ。
行き先は、サンパウロから車で1時間弱の、モジ・ダス・クルーゼスという町。結構大きい町で、野菜農家だけでなく、工場などもあって人口も増えているみたいだ。
モジで、やはり知り合いのアカネさん(仮名)ご家族と合流。実はアカネさんのご主人が地域の農家と親しくて、現地での案内役をかって出てくれたのだった。

最初に訪れたのは、ニンジンやレタスの栽培をしているTさんの農場。
自宅の前にはすでに大きな集荷トラックが何台も並び、木箱に詰められたとれたてのニンジンやレタスが荷台に積み込まれていた。
おお、なんて立派なニンジン!!!
早速、そのニンジン畑に案内してもらうことにした。

Tさんは、数十人の作業員を雇っている。今日もニンジン畑では、10人近いブラジル人たちが収穫作業にいそしんでいた。
我が実家では、ニンジン掘り作業は機械で行っていた。夫婦ふたりだけで作業をとことん省力化する、最近の日本の農業である。
ここブラジルでは、ふた昔前の日本みたいに、でめんさん(繁忙期のみ雇うバイト)を使ってるんだねぇ…と、両親もその違いに驚いていた。
作業員の人たちのためにTさんは農場敷地内に住居を建てている。彼らは住み込みで働いているというわけだ。

さてニンジン畑、とにかく土が黒々として柔らかく、太い立派なニンジンがすぽすぽといとも簡単に抜けていく。
北海道の土じゃ、こうはいかないね〜、などといちいち感動している我が両親。うんうん、これは連れて来たかいがありましたな。
ニンジンは掘ったそばから水洗いされ、出荷用の箱に入れられていく。すべて手作業だ。


ニンジン畑の側には、ただいま成長中のレタスが何種類も植わっていた。ブラジルのレタスは種類が豊富で、チリチリの葉のものとか、サニーレタスとか、紫色の葉のものとか…そのあたりも、北海道の両親にとっては新鮮だったみたい。
かなり満足して見学していた。
途中、ブラジル特有の短時間かつ強烈なスコールみたいな雨が降ったりして。でもカッパも着ずに作業する人々、そして「濡れてもすぐ乾くのさ」とおおらかに雨を受け入れるTさんの言葉。そんなところにも、ブラジルのおおらかさを感じ取っていたみたい。
(確かに濡れたTシャツは、みるみるうちに乾いていったよ)

立派なニンジンのお土産をたくさんいただき、Tさんの農場を後にした。
ランチタイムはモジの中心地にあるシュラスコレストランSHIBATAで。両親にとっての初シュラスコ体験、これまた目新しさに喜んでいた。
そこな日系人シバタ氏が経営する店だったから、寿司もあれば味噌汁もある。そんなところもピッタリだったみたい。
(なお、この街の市長さんも日系人なんだそう!日系人がすごく多い街なんだ)

午後は少し車で移動して、やはり日系人のHさんのラン農場へ。ここはかつて、知る会の見学会で私は訪れたことがあった。
その時期よりも今の方がもっと、ランは花盛り!たくさんのハウスに、びっしりと美しいランが並んでいた。
何度見ても圧巻だなぁ…。
ここのHさんは、もう70代くらいかと思われるけれど、とても哲学者というか、人格者というか、とにかく素晴らしい方なのだ。
ガハハっと笑う豪快なおじさんなんだけど、言うことがひとつひとつ、ぐっと心に響くのよ。
今の若い人にぜひ聞かせてあげたいと思うような、格言的な、でもそれはおじさんが実践で見につけたことだから実感がわいている…そんな言葉を投げかけてくれる。
移民としてブラジルに単身で渡り、数々の苦労を経て、ここまで成功したおじさんだもの。その言葉の奥深さは本物だ。
このおじさんにも一同、感動し、まぁとにかくこの見学ツアーはとっても実のある充実した内容だったのだ。

主な観光名所をめぐるスタンダードな旅もいいけど、自分の興味の対象がはっきりしていれば、こんなふうにスペシャルな見学ツアーはもっといいよね。
思いがけず私たち夫婦も、ブラジルの農業の一端を垣間見させていただくことができ、いい一日だった。
現地でお世話してくださった皆さん、ありがとうございました〜!!